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Vol.11(CM天気図)「別品」の国へ

2013年10月26日

明治神宮外苑の国立競技場をぶっ壊して、8万人を収容する“世界一”
の巨大な競技場をつくるんだそうで。かと思ったら“成長最優先”なんて
いう首相の言葉が、派手に新聞に躍ったりして。

待てよ、この風景、どこかで見たことがあるぞと思ったら、そうだよ、
50年ほど前の東京の空気にそっくりじゃないか。

あのときは、オリンピック向けの工事で東京は騒音と粉塵(ふんじん)
だらけになり、その中から池田首相の「高度成長で所得倍増」なんてかけ
声が景気よく流れていたっけ。

でもなあ、オリンピックはいいが、時代はあのときとすっかり変わって
いる。いまどき成長なんて無理があるんじゃないの?

「“成長は善である”とはなんたる言い草か。私の子供たちが成長するの
なら至極結構であろうが、この私がいま突然、成長し始めようものなら、
それはもう悲劇である」と、経済学者のシューマッハーさんも言っている。
成長から成熟へ。すぐれた哲学者や経済学者の人たちが言うように、基本
路線を大きく変えるときだと思うよ。

これは前にも言ったが、むかしの中国では、品評会などでの入選順位を、
1等・2等・3等……ではなく、1品・2品・3品……と呼んだそうな。
で、その審査のモノサシでははかれないが、すぐれて個性的なものを「別品」
と呼んで評価したという。

別品。いいねえ。世界で1位とか2位とか、何かにつけてそんな順位を
競い合う野暮(やぼ)な国よりも、戦争も原発もない「別品」の国がいい
し、この国にはそれだけの社会的・文化的資産もある。

そうそう、別品の国に8万人の競技場はいらない。え? いつ国の路線
を切り替えるかって? そりゃあんた、いまでしょ。

(天野祐吉:コラムニスト)
朝日新聞デジタル 2013.10.9 より

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